特定の場面になると言葉が出なくなる「選択性緘黙」

皆さん、こんにちは☺️

「家では元気におしゃべりするし、笑顔もたくさん見せてくれるのに…」
幼稚園や保育園、小学校に一歩入った途端、固まってしまい、挨拶も、先生からの質問への返事もできなくなってしまう。
そんなお子さんの姿を前に、「どうしてなんだろう?」「何か嫌な事があるのかな」「ただの恥ずかしがり屋にしては不自然だな」など、悩まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

医学や心理学の世界では、このような状態を「選択性緘黙(せんたくせいかんもく)」または「場面緘黙」と呼びます。

この「選択性」という言葉の響きから、「子どもが自分で話す相手や場面を『選択』している(=わがまま、甘え?)」という印象を抱きがちですが、それは大きな誤解です。

選択性緘黙の本質は、わがままでも甘えでもありません。
子ども自身は「話したい」「答えなさいと言われているのも分かっている」のに、ある特定の場所に行くと、不安と恐怖で喉の筋肉がこわばってしまい、【物理的に声が出なくなってしまう状態】なのです。

今回は、選択性緘黙の正しい定義や、原因と背景、そして専門機関で行われる治療アプローチや、ご家庭でできる関わり方について、詳しくお話しします。

選択性緘黙の「定義」:恥ずかしがり屋との違い
まずは、選択性緘黙の正しい定義を理解しましょう。

  • 医学的・心理学的定義
    他の場面(主に家庭など)では話しているにもかかわらず、「話すことが期待される特定の社会的状況(学校や幼稚園など)において、一貫して話すことができない状態」が少なくとも1ヶ月以上(入園・入学直後の1ヶ月は除く)続き、それが学業や対人コミュニケーションに支障をきたしている場合、選択性緘黙と診断されます。
    定義には、話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではないこと、また、「自閉スペクトラム症(ASD)などの症状だけで話せないわけではない(それらの特性とは別に、特定の場面での強い不安症状が存在する)」ということや、他の精神疾患の経過中にのみ起こるものではない、という診断上の決まりもあります。

  • 「人見知り」「恥ずかしがり屋」との明確な線引き
    人見知りの子は、初対面の緊張から時間が経てば少しずつ話せるようになります。
    しかし、選択性緘黙の子どもは「環境に慣れても特定の場所・人に対しては話せない状態が続く」のが特徴です。
    また、話さないことで周囲から注目されたり、からかわれたりする二次的な苦痛を本人が強く抱えているケースが少なくありません。

緘黙の「原因」と「背景」
かつては「親の育て方」や「家庭環境」が原因だと誤解されることもありましたが、これは心理学的に明確に否定されています。
現在の臨床心理学において、原因は「複数の要因が複雑に絡み合っている」と考えられています。

1.  生理学的・遺伝的要因(生まれつきの特性)

  • 不安に対する感受性の高さ
    脳の感情を司る「扁桃体(へんとうたい)」が過敏で、生まれつき新しい環境や刺激に対して強い恐怖や不安を感じやすい気質を持っています。

  • 声帯のフリーズ
     不安が極限に達すると、自律神経の働きによって身体がすくみ、喉の筋肉(声帯)が緊張して物理的に声が出にくくなります。

2.  発達的要因・背景にある特性
選択性緘黙の子どもの背景には、以下のような発達上の特性や併存症が隠れていることがあります。

  • 不安症(分離不安・社交不安)の併存
     対人恐怖や、親から離れることへの強い不安を持っている。

  • 言語発達の軽微な遅れ・構音障害
    「自分の発音はおかしいのではないか」「うまく伝わらないかもしれない」という不安が緘黙を強めている。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症(併存や特性について)
    診断基準上は「ASDの症状だけで説明がつくものは除く」とされていますが、臨床ではASDの特性を背景に持ちながら、場面緘黙を併存しているケースが少なくありません。
    例えば、集団のルールや場の空気を読むことへの苦手さ、または感覚過敏(騒がしい教室が苦手など)があることで、学校に対して強い不安や「失敗したらどうしよう」という恐怖を抱きやすくなり、それが引き金となって緘黙の症状が引き出されることがあります。

治療・アプローチ法
選択性緘黙の治療・支援には、科学的根拠のある心理療法が確立されています。
公認心理師や専門機関で行われる主なアプローチは以下の通りです。

  • 行動療法・認知行動療法(CBT)
    「話せないことで不安を回避する」という悪循環を断ち切り、小さな「できた」を積み重ねるアプローチです。

  • 刺激フェイディング法
    「確実に話せる状況」からスタートし、ほんの少しずつ、段階的に「人」や「場所」を増やしていく技法です。
    例えば、「放課後の誰もいない教室で、お母さんと1対1で話す」ことから始め、段階的に「担任の先生が遠くから加わる」「いつもの教室に移る」といったスモールステップを踏んでいきます。
  • シェイピング法
    最初は「うなずき」、次は「簡単なジェスチャー」、その次は「筆談」「ささやき声」というように、目標とする「発話」に向けて、行動を細分化してスモールステップで褒め、自信を育んでいく方法です。

家庭や学校での「具体的な関わり方」
日常の中でできる、大人の具体的なサポート方法をご紹介します。

1. 「話すこと」のプレッシャーを排除する
「返事は?」「聞いてる?」などと発話を促すことは、子どもの脳の不安を刺激し、さらに喉を固まらせてしまいます。
発話への直接的なプレッシャーはかけないことが原則です。

2.  代替手段(ジェスチャーや筆談)を肯定する
言葉が出なくても、指差し、うなずき、筆談でのやり取りができたら、大人は「伝えてくれてありがとう!」と笑顔で受け止めてあげましょう。
「話せなくても、自分の意思は伝わるんだ」「ここは安全な場所なんだ」という安心感の土台(安全基地)ができることが、やがて「話してみよう」という一歩に繋がります。

3.  質問を工夫する
「今日何が楽しかった?」という自由に答えられる質問(オープン・クエスチョン)は、脳に高い言語処理の負荷をかけます。
「給食は好きなメニューだった?」「ハンバーグ?それともカレーライス?」のように、「うなずき」や「指差し」で答えられる選択式の質問(クローズド・クエスチョン)から始め、コミュニケーションのハードルを下げてあげましょう。

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学校や園でお子さんが喋らない様子を見ると、親御さんとしては焦りや不安を感じ、「なんとか話せるように」と頑張ってしまうこともあると思います。しかし、お子さん一人ひとりの「原因や背景」を知り、「話さないのではなく、話せないんだ」という理解をもった上で、できることから少しずつサポートしていくことが大切です。
もし「選択性緘黙かもしれない…」と一人で悩まれている場合は、まずは園や学校の先生、スクールカウンセラー、または地域の市役所内の家庭児童相談室など、専門機関へ相談してみてくださいね。一緒に、お子さんの安心できる環境を作っていきましょう。

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参考文献
American Psychiatric Association(著) 日本精神神経学会(監修) 2014 『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』 医学書院
「こころ」のための専門メディア 金子書房 宮本晶子 言葉を発する行動とこころ https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/ne3f8c12e96a7 (参照 2026.6.20)

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